絶望と死は男の前に立ち塞がり、その瞳に深い影を落としてしまった。
怒りと復讐の心で冴え冴えと澄み渡り、誰ひとりとしてその眼に映ることは叶わない。
狂気を手に立ち上がった男を誰も止められなかった。止めようとすらしなかった。
運命の歯車が存在するなら、そこで歯車は欠けた。
もしくは、壊れてしまったのだ。彼は壊れてしまったのだ。
歯車は止まる事を知らぬゆえ時間だけが過ぎ去り、妄執は深層に燻り続ける。
男はその残り火に取り憑かれた時、誰の事も考えられなかった。
引き留めようと繋いだ手の骨を砕き、呼び止める口を切り裂いた。
男が我に返ったとき、その傍に誰も立つことは叶わない。
それでも、誰ひとり彼を止められやしない。
(とある学者の書棚にある書物の一節より)